チオ硫酸ナトリウムとHSAB理論による重金属排出機序

概要

チオ硫酸ナトリウム(Na₂S₂O₃)は、HSAB(Hard and Soft Acids and Bases)理論に基づいて、ソフトベース(Soft Base)としての性質を活かし、ソフト酸である水銀(Hg²⁺)などの重金属と錯体を形成して排出を促進する。

HSAB理論に基づく分類

【ソフト酸(Soft Acid)】:Hg²⁺, Pb²⁺, Cd²⁺, Au⁺ など
【ソフト塩基(Soft Base)】:S²⁻, R–S⁻, チオール, チオ硫酸(S₂O₃²⁻) など

→ ソフト酸とソフト塩基は相互に高い親和性を示し、安定な錯体を形成する。

錯体形成による排出促進機構

・チオ硫酸の硫黄原子(–S)がHg²⁺と反応し、錯体(Hg(S₂O₃)²⁻など)を形成する。
・この錯体は水溶性が高く、尿中へ排出されやすくなる。
・従来の多座型キレート剤(DMSAやDMPS)とは異なり、単座または少座の硫黄部位で選択的に結合する。

臨床的意義

・腎臓に蓄積した水銀を選択的に排出できるため、慢性的な水銀中毒に対して有効なアプローチとなる。
・酸化ストレス軽減作用を併せ持つため、腎機能保護にも寄与する可能性がある。
・DMSAやDMPSに比べ副作用が少なく、比較的安全に使用可能とされる。

主な参考文献

  • Pearson RG. “Hard and soft acids and bases.” J Am Chem Soc. 1963.
  • Zalups RK. “Molecular interactions with mercury in the kidney.” Pharmacol Rev. 2000.
  • Matos RE et al. “Sodium thiosulfate increases the urinary excretion of mercury and mitigates nephrotoxicity in rats.” J Appl Toxicol. 2017.